パーソナルジムの変遷
筆者の過去の記憶を遡ると、会費以外のパーソナルトレーニングオプションを知ったのはボディビルジムでした。40年前のボディビルジムは個人経営者が多く、規模も小さく、汗臭く、大会出場を目指す選手が黙々とトレーニングをする特殊な環境でした。
オーナーやコーチが有名選手のケースも多く、大会出場を目指す選手がパーソナルトレーニングを受ける姿が見られました。
当時はフィットネスクラブではボディビルコンテストの出場登録ができず、連盟加盟ボディビルジムからのみ出場ができる利権構造であったため、多くの選手が環境の整ったフィットネスクラブで日々トレーニングはしているものの、大会出場のためにボディビルジムにも会費を払い続けていたのです。
当時のフリーウエイトエリアがボディビルジム化していったのは容易に想像がつくはずです。一般の会員からのクレームも多く、対処に困ったクラブはフリーウエイト排除、同時にジムトレーナーもリストラさする愚行に走ることとなります。
排除された会員や社員は、受け皿となるゴールドジムに代表される上級者対応クラブに移籍することとなり、若いトレーナーは社員へ、ベテランで競技実績があるトレーナーは契約パーソナルトレーナーへと転職するケースが見られました。
この当時のパーソナルトレーニング料金も、個人差はありますが5,000円程度が平均値と記憶しています。イメージは整体料金と同等で10分=1,000円。パーソナルトレーニングを一般の方も受ける土壌が作られていきました。
ライザップの出現でパーソナルジムバブルへ
魅力的なCMでパーソナルトレーニングを全国に広めたのはライザップ。2ヶ月間(50分×16回)の料金は入会金込みで382,800円(税込)。1回あたり23,925円と実に高額。
ライザップの成功により、二番煎じパーソナルジムが大量発生することとなります。
ライザップより少し安いジムチェーンの出現や、ライザップ勤務経験者の独立開業が相次ぐこととなります。100万円もあれば十分に器具は揃うので、独立開業のハードルは非常に低く感じたのでしょう。
では、結局今はどうなったのでしょうか?
乱立し顧客の奪い合いへ。広告宣伝費はかさみ、ディスカウント合戦も激化しています。見込み客側からすれば、ホットペッパービューティを駆使すれば1年間は近隣店舗の無料体験を楽しめる環境ですから、入会意欲は非常に低いわけです。結果的に努力しても成約率は上がらず、しかも2ヶ月で大半が辞めていくので常に新規を追い求めなければならない。さあ、現状このビジネスモデルに未来はありますか?
次のビジネスモデル構築を急げ
個室型パーソナルジムが参考にするべきはパーソナルピラティススタジオ。
パーソナルピラティススタジオは昔からありますが、リフォーマー、キャデラック、チェアなどの基本器具を揃え、パーソナルジム同様にマンションなどで開業しているケースが多いです。1レッスンは地域差あれども10,000円程度で値崩れがありません。
月で換算すると40,000円を支払うことになりますが、長く続けている会員が多いのが特徴です。家賃の安い地方では、数名のグループ対応にし、その分単価を半額程度に下げてうまくいっている店舗も多いですね。
ピラティスは現在バブル状態で、グループピラティススタジオが数多く出店していますが、影響を受けることは少ないと考えられ、中長期で見ればメリットのほうが大きいと思います。
これら成功理由は、インストラクターの知識と経験にお客が価値を感じているからです。
専用器具も取り扱えるメジャー団体の認定インストラクターになるには、最低でも150万円以上は必要で、習得期間もそれ相応に必要となります。中には理学療法士や柔道整復師など国家資格を持つ方も多く、カラダのメンテナンスを任せられる安心感があります。
それに対して激増するグループリフォーマースタジオの多くが、未経験者歓迎、社内研修制度ありの求人広告でスタッフ募集している現実を見れば、なんちゃってインストラクターであることは明確です。水回りも必要なく低投資で出店できるし、現在ブームなので出店優先で人材確保・教育が疎かに・・・今まで同様なケースで失敗してきた例は沢山見てきました。ある意味、危機に瀕しているパーソナルトレーニングジムも当てはまるのでは?
では前述したピラティススタジオの成功例をパーソナルジムに生かすにはどうすれば良いのか?
まず、短期間ダイエット戦略のみの運営からの脱却です。2ヶ月でマイナス何キロ!これはもう見飽きています。糖質制限をさせるだけでしょ!とネタバレもしています。運動もマルチラック50分で出来るエクササイズのバリエーションは限られますので飽きも来ます。
結論として、短期間ダイエット戦略以外の柱を持つことが出来るかが重要になります。
例を挙げるとすれば、まずは猫背・骨盤矯正や痛み改善となります。要は整骨院の主力メニューです。整骨院も保険診療で昔はお年寄りで賑わっていましたが、現在では交通事故以外は自費診療です。新規顧客を獲得する上で、キラーコンテンツとなっているのが猫背・骨盤矯正です。他業種なので、ホームページを見たことがある方は少ないと思いますが、金額もおおよそ5,000円を超えています。更に強力にセールスされるのが「楽トレ」というEMSマシンです。20分放置状態でおおよそ2,500円を売り上げます。合計すると7,500円をあの小さなカーテンに囲まれた空間で売り上げているのです。
ロジックとしては、まず骨盤矯正で整える。整えた骨盤も大腰筋が強化されなければ、内側に締め付ける力が足りずに、また歪んできてしまう。なので、矯正後に大腰筋にEMS刺激を与えて筋力強化を行い歪まないカラダにしていく。どうですかツッコミどころ満点ですね。でも、ビジネスとして成立しているのです。
次に例を挙げるならば妊活メソッドです。こちらは両親の資金援助も期待できますので単価UPが期待できますし、広域から集客できるコンテンツになります。
不妊の原因は様々ありますが、病院に行くとホルモン注射で強制的に数値を高め、妊娠できる状態に持っていきます。でもこれらの多くは食事と運動を見直すことで同様の改善が期待できます。体型を気にして偏ったダイエットを行い、結果的に筋肉が減ってしまい低体温になっている。そんな方が多いのです。サプリメントで不足している栄養素を補い、定期的な運動を行うことで妊娠できるベストな状態にカラダを作り上げる。それでも問題がある場合は医学も活用する。これが本来の流れです。
このように、悩み解消型の横展開が必要になります。前述したパーソナルピラティススタジオでは対応できている内容です。
理学療法士・柔道整復師・鍼灸師が活躍する時代へ
今後は、前述したように悩み解消型の横展開が必要です。
そうなると理学療法士、柔道整復師、鍼灸師資格を持ったトレーナーが活躍する時代となります。
今までのように、趣味の筋トレを仕事にしたいと、10万円程度で資格取得し、箔をつけるためにフィジークコンテストに出場した程度のトレーナーレベルで、高額単価ビジネスができていたことが異常だったのです。
店舗形態もセレブを対象にした厳重なプライバシー体制が必要なケースは除き、個室から数名が同時に利用できる店舗形態にすることが理想です。トレーナー目線で言えば、同業スタッフとのコミュニケーションは、個室ジムにありがちな孤独感からくる漠然とした不安を解消することができますし、治療系有資格者も1名いれば治療→改善トレーニングとバトンタッチすることで体勢を大きく変えることなく対応することができます。
その他ヤドカリ戦略
セミナーでも話していますが、私がパーソナルトレーニングジム経営者であれば、即行動する戦略を紹介します。
競合も増え広告宣伝費は嵩む。単価を下げないと集客や継続がままならない。これらの問題は永遠に付きまといます。脱却するために、近隣24時間ジム、総合クラブへ営業をかけましょう。
24時間ジム経営者の悩みは固定費の削減。スタッフタイムがどんどん削られているのが証拠です。ならば、清掃、入退会受付、基本利用説明などを全て受託する。しかも無料で。多くの経営者が興味を示すはずです。こちら側のメリットとしては、1億以上の投資が必要なジムの設備がタダで手に入るし、銀行への返済などから解放されます。パーソナルジムを運営していても清掃はするし、入会受付もするわけですから仕事が増えるわけではありません。その代わり、パーソナル売上の100%はいただく契約にすることです。クラブ経営者は今までパーソナル売り上げなどは当てにしてないわけですから、人件費が削減されるだけでもメリットは絶大なのです。
ここからは運営努力です。例え平均700名の在籍会員がいてもパーソナル契約は既存会員からは見込めません。指導なしでも低価格で利用できるから通っている既存会員に、月会費と同等のセッション料を要求しても財布の紐は緩みません。ターゲットはあくまで新規入会者となります。パーソナルトレーニングに関してのWebやSNSでの広告、日々のブログやYouTubeの更新を努力し、新規顧客を獲得する必要があります。こちらも24時間ジム経営者にとっては会員を増やす広告宣伝を追加負担してくれているようなものなので、メリットとなります。
これがWin Winになる戦略です。総合クラブについても同様です。総合クラブのスタッフはジュニアスイミングやスタジオレッスンなど激務のため、パーソナルトレーニングを行う時間、それ以前に詳しい知識や技術を習得する余裕がありません。なので、ジムだけの運営受託が提案としては望ましい。パーソナル売り上げは100%いただく代わりに、初心者サポートとジム内の管理を行う。
まとめ
競合ひしめくパーソナルジム業界。次の戦略のヒントになったでしょうか?
私の元にはパーソナルジムからの相談も多く、その多くが既に手の施しようがない状態です。早めの方向修正を行い、次のステップに進めることを願っています。
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